いつ頃からだろう、男は何かが足りない気がしていた。
197X年
「I’m free!」とステージ上の男は叫んだ。
ギブソンレスポールはマーシャルアンプをフルヴォリュームにして大空に唸った。
野外に集まった多くの学生たちも腕を振り上げ何かを叫んでいた。
199X年
男の仕事だは順調だった。
ちょうど押しよせたインターネットの波に乗り
シリコンバレーもネットスペースも男の指の先のディスプレイにあった。
201X年
老年と言われる男が姿勢を保てず足を組んで座っている。
休日なのにどこにも行くあてのない男、
誰かと対峙するための準備なのか、禅寺で黙々と座っている。
男は何かを求めて生きてきた。
もう半世紀近くになるのにまだよくわからない。
結局、求めることをただ求めていたのだろうか。
ある晩男は、夢うつつの瞬間に偶然「見えないもの」を見つめることで何かが身体に起こっていることに気がついた。見えないものが自分の中の見えないものと対峙している。
気がつくと、力が身体中に湧き上がっていた。
あの夜から、見えない空間に何かが生まれているのがわかるようになった。
いまだにそれは成長して機微となり、連鎖し増幅している。
きっと至る処でそうなのだ。
何もないと思っていた処が、実はそうではないと実感した時から時から男の観念はかわり、
世界は一変した、
いま男は寿命はわずかでもあり、はるか彼方でもあるように感じる、
死は昔ほど怖いものでは無くなった。死は通過点だ。
2018/4/23 sosuke imaeda
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