長く続けていかれる方は、私が稽古着姿で教授する姿に興味を持たれ、ご自分でも着物を着て稽古をされるようになる方もおられます。ちなみに稽古着は着物(半着または長着)に裾を絞った左右別れた袴が一般的です。
先日も、日本の身体文化に興味を持った方が着物でおいでいただきましたが、身体自体の姿勢や挙動が着物により、洋装とは大きく異なり、動法で教授する身体動作やその根本となる身体感覚が自然に醸し出されることに改めて、身体に纏うもので国々の文化は育まれて来たのだと感じました。
一例を挙げれば、身体に大きく巻き付けたものが着物ですが、それにより、足首周りの動作は制限されます。そうなると自然に普段使わない太ももや股関節を小さくとも強く感覚して動かすようになります。その動きは股関節に伝播し、仙椎を通じて、普段はゆるゆるになってしまっている腰に伝わっていきます。そして、特に女性の方の帯はまさに腰を締め、そこが身体の要だと意識せずとも感覚して生活するようになります。
また、私たちの稽古の基本となる正座の意味合いもわかります。普通に座れば、丹田を中心とする下腹は萎んでしまって、なんらチカラをためていません。しかし妊婦さんがそうであるように、身体が最もエネルギーを溜めやすいところは下腹だと思います。
着物を着て作法に従い正座すると、自然と鼠蹊部が深くなり、その感覚は骨盤全体に伝播し、腰が閉まることにより、大きく呼吸すると、下腹がゆたかに膨らんでくる感覚がわかります。私なんかは、そんな時、「天上天下唯我独尊」といった境地を感じます。とても気持ちのいい体が締まった感じです。
そういえば、中学生の時、野球部でよく「シマっていこう!」と声を掛け合っていたのを思い出しました。当時は意味もわからず使っていましたが、このフレーズはとても日本的なような気がします。
椅子に座った生活ではとてもそういった感覚は作れません。
世界には多くの民族衣装が見受けられますが。それぞれ着てみるとその地方で佳いと感じる身体はこんな風だったのかなと感じられると思います。そして、おそらく外から見るのと実際に着るのとでは随分違うのではないかと思います。
私たちは教授するとき「身体感覚」という言葉をよく使いますが、身に纏うものは日常とは異次元の感覚を作りうる大きな要素といえるでしょう。
ぜひ、皆さんも畳の上で着物を纏い「シマった身体」を感覚してみませんか。
2023/7/30 Sosuke Imaeda